2013年5月23日木曜日

コラム:質と量

最近、オーストラリアのプロラグビー選手を治療している関係で、日本のラグビーについていろいろ聞くことができる。
その内容がとても興味深いので書いてみたいと思う。

日本とオーストラリアのラグビーの違いについて聞いたところ「オーストラリアでは練習の質が重要視されるが、日本ではいまだに量が重要視される」という応えが返ってきた。いきなり核心をついている。いきなり過ぎて返す言葉も見つからない。納得。

これは、サントリーで活躍し、今はブランビーズで驚異的なパフォーマンスをしているジョージ・スミスも同じことを言っていたようだ。ジョージがオーストラリアに帰ってインタビューを受け「日本のラグビーは、練習は長いが試合数が少ないのでコンディションを整えるには良い」と応えている。

そして、オーストラリアでは、「常に量よりも質を重要に考えるように」コーチに言われるようだ。日本では、いつまでも練習していることが良いことだろう。これは、スポーツだけでなく、いつまでも会社に残っていることが良くて、早く帰ろうとすると冷たい目線という日本の社会全体にも反映している。「質より量」は日本の社会の根本的な考え方なのだろう。

スポーツを始めたころはそのスポーツの楽しさを教え、いざ本格的にプレイするようになったら量よりも質を追及していく。

言葉にすれば大したことではないのだが、意識するところが違う10年~15年は成長度に大きな変化をもたらすように思う。年齢とともに、楽しいから勝ちたいにかわり、自然とうまくなりたいという気持ちが芽生える。自然にというところが重要となる。

今回、日本の男子バレーの監督に日系アメリカ人の監督が就任した。アメリカでの実績は申し分ない。いままでは、コートで歯を見せるなという典型的な日本のスタイルでやっていたのが、練習のための練習はしないということで、試合の場面、場面にあった練習スタイルに変わったようだ。これがどのように成績につながっていくのかとても楽しみだし、ぜひとも良い結果がでてもらいたいとも思う。日本の選手は始めてプレーする楽しさを知るのではないだろうか。

日本の野球選手もメジャーに行ってその練習法に戸惑うという話を聞く。特に、ピッチャーは投球制限などの関係で調整が難しいようだ。これは、肩は消耗品という考えがあるからなのだろうが、裏をかえせば、「質より量」から「量より質」の変化に戸惑っているのではないだろうか。そして、その背景には、なぜ多く投げる必要性と不必要性という疑問を解消しなくてはならない。

私もオーストラリアにいた時に、勉強の仕方の違いに戸惑ったことがある。私は暗記人間だったので、何でも理解する前に、模範回答を作ってやみくもに暗記していくのだが、オーストラリアの友達は、その問題を細かく分解し、自分の言葉で、自分が納得できるように理解していく。テストの点は私のほうが良くても、その後、その知識を臨床に活かしていくタイミングになると大きな差が生まれている。この違いに気が付き、勉強のやり方を変えようとしたが、はじめはとてつもなく大変で、終わりがないように感じた。しかし、慣れてくるとそのほうが、点と線がつながるように理解が広がっていくので結果的には、効率的だと気がついた。

ラグビーに話を戻すと、日本ラグビーのシステムの問題も指摘していた。オーストラリアでは、本格的なラグビーの教育は16歳から始まり、20前後でプロ契約し、FWで24歳。BKで22歳くらいでナショナルチームに選ばれ始めるようだ。日本でも本格的に始まるのは16歳くらいで、大学に行き、トップリーグに入るのが22歳。このように書くと年齢的には同じようだが、彼がいうには、トップチームに入ってきたタイミングで身体ができていて、戦術を理解できるプレイヤーが少ないといい、日本は、22歳からラグビーを本格的に始めるから代表に選ばれるのが27,8歳になるという。それでは遅すぎというのだ。確かにSuper15をみていると、若い選手が多い。たまに10代の選手をみる。

彼は、ある一部の大学を除いては、きちんとした指導者、コーチがいないのではないかとも指摘していた。大学でいないのだから、高校ではさらに厳しいだろう。高校のときからきちんとしたウエイトトレーニングのやり方をしっているか、栄養について知っているのかだけでもその後の成長には大きな差となるし、もちろん戦術面ではその差は歴然となるだろう。

高校である程度実力があるプレイヤーは、大学に行きながらでも、ダイレクトにトップリーグに進み早い段階で戦術の理解や、肉体をつくり始められないのだろうか。2019年に日本でワールドカップが開催される。楽しみんで仕方がない。ホスト国として日本のラグビーが今以上に盛り上がってくれることを切に願う。それには、実力をつけなくてはならない。今の代表もとても力をつけてきている。過去最高なのは間違いない。しかし、それ以降も若い選手がどんどんでてこなければ盛り上がることはないだろう。今年Super15に2人の日本人がデビューした。日本のラグビーの夜明けだ。
どんどん続いてもらいたい。サッカーだって10年前はヨーロッパでプレーする選手は少なかった。きっとできるはずだ。

「量より質」。運動も会社も、そして、治療も同じだ。

でも、今この瞬間にも、日本中の中学や高校のグランドで理不尽に長い練習が繰り返されているのだろう。
軍国主義の名残。勝利至上主義。

少しづつ変わって行くといいなぁ。

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